ステージ4肺がんと腹膜播種の関係
腹膜播種とは何か?
腹膜播種とは、がん細胞が腹腔内に広がり、腹膜の表面に「種をまいたように」散らばる病態を指します。
本来、腹膜播種は胃がん、大腸がん、卵巣がんなど消化器系・婦人科系のがんでよくみられますが、肺がんでも末期(ステージ4)において稀に認められることがあります。
肺がんから腹膜播種に至るメカニズムは明確には解明されていませんが、血行性またはリンパ行性の転移、あるいは胸腹膜を貫通して播種する可能性が指摘されています。特に、腺がんタイプ(EGFR変異陽性など)の肺がんで観察されやすい傾向があります。
腹膜播種による症状とその進行
腹膜播種が進行すると、次のような症状が現れることがあります。
- 腹水の貯留による腹部膨満感
- 消化不良、悪心、嘔吐
- 便秘や腸閉塞症状
- 体重減少、全身倦怠感
特に腹水の貯留が著しい場合には、呼吸困難を伴うこともあり、QOL(生活の質)に大きな影響を与えることになります。
腹膜播種の診断方法と進行評価
画像検査
CTやMRIでは、腹膜の肥厚や腹水の貯留などが観察されますが、微小な播種巣は見逃されやすいため、診断が困難なケースもあります。
PET-CTは全身転移評価に有効ですが、腹膜への集積は必ずしも明瞭ではありません。
細胞診・腹腔鏡検査
穿刺によって得られた腹水の細胞診でがん細胞が検出されれば腹膜播種と診断されます。ただし、細胞が出てこない「陰性腹水」もあるため、腹腔鏡検査による直接観察と生検が確定診断につながることもあります。
ステージ4肺がん腹膜播種の治療戦略
1. 全身化学療法・分子標的薬治療
基本的な治療の柱は全身治療(化学療法や分子標的薬)です。
EGFR変異陽性であれば、オシメルチニブ(タグリッソ)などのEGFR-TKIが腹膜病変にも効果を示すケースがあります。
同様に、ALK融合遺伝子陽性ではアレクチニブ、ROS1陽性ではクリゾチニブなどが選択されます。
一方、これらの遺伝子異常がない場合は、プラチナ製剤を中心とした化学療法+免疫チェックポイント阻害薬の併用が標準的となります。
腹膜播種は抗がん剤の浸透がやや悪いため、治療効果が出るまでに時間がかかる場合もあり、早期からの症状緩和策が必要です。
2. 腹水コントロールと症状緩和
腹水が多量に貯留する場合には、腹水穿刺による一時的な除去が行われます。
しかし、頻回の穿刺は栄養バランスの悪化や感染症リスクがあるため、腹腔ドレーン留置や腹腔ポートの設置が選択されることもあります。
また、腹膜癒着療法(OK-432やタルク)によって腹水の再貯留を抑える手法も一部の症例で検討されます。
水分・電解質の管理、消化器症状の緩和、栄養サポートなど、緩和ケアの併用が極めて重要です。
3. 新しい選択肢:光免疫療法との併用
自由診療となる光免疫療法は、肺がん由来の腹膜病変に対しても適応の可能性があり、注目されています。
リポソーム化したICGを腹腔内に投与し、近赤外線レーザーでがん細胞のみを破壊する治療法であり、副作用が比較的少ない点も利点です。
標準治療との併用も可能で、腹膜播種により標準治療の効果が限定的となったケースでも、新たな選択肢となり得ます。
外来通院での実施も可能で、QOLを重視する患者に適した治療として期待されています。
QOLと患者中心の治療選択
治癒より「穏やかに過ごす」を重視した治療へ
腹膜播種は肺がんの中でも進行した状態であり、根治を目的とするよりも、症状を軽減しながら日常生活を維持するという視点が重要になります。
緩和ケアチームとの連携によって、疼痛・不快感・精神的な苦痛に対する包括的なケアが可能です。
在宅医療や家族支援との連携
近年では、腹水ドレーン管理を含めて在宅医療での対応も進んでおり、自宅での療養を希望する方への支援体制も充実しています。
また、ご家族へのケアやコミュニケーション支援も重要なポイントとなります。
まとめ
ステージ4肺がんに伴う腹膜播種は予後不良の兆候とされますが、症状緩和・QOL維持を重視した治療戦略によって、日常生活を取り戻すことは可能です。
分子標的薬や免疫療法に加え、光免疫療法など新しい選択肢も活用することで、個別化医療がますます重要になってきています。
当院では、腹膜播種を含む進行肺がんに対して、患者様の希望を尊重した多様な治療提案を行っております。お気軽にご相談ください。
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【当該記事監修者】癌統括医師 小林賢次
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