前立腺がんの副腎転移とは
前立腺がんは一般的に骨、リンパ節、肺、肝臓への転移が多いとされますが、副腎転移は比較的まれなパターンです。それでもステージ4(M1bまたはM1c)に分類されるため、進行がんとしての治療が求められます。
副腎はホルモンを分泌する重要な臓器であり、転移によって機能障害やホルモンバランスの異常が起こる可能性もあります。そのため、がんの進行管理とともに副腎機能の評価も重要となります。
副腎転移の診断と症状
副腎への転移は、PET-CTやMRIといった高度画像診断で発見されることが一般的です。症状としては以下のようなものがみられる場合があります:
- 腹部や背部の鈍痛
- 副腎ホルモンの異常による全身倦怠感や血圧変動
- 副腎腫瘍による圧迫感
しかしながら、多くの場合は無症状で進行するため、定期的な画像診断が副腎転移の早期発見に欠かせません。
ステージ4における治療選択肢
前立腺がんの副腎転移に対しては、全身療法を中心に治療が組み立てられます。主な治療選択肢は以下のとおりです。
1. ホルモン療法(アンドロゲン除去療法:ADT)
前立腺がんの第一選択治療は依然としてホルモン療法です。LHRHアゴニスト・アンタゴニストによってアンドロゲンの分泌を抑制することで、がんの増殖をコントロールします。副腎は微量ながらアンドロゲンを分泌するため、副腎転移にも効果が見込まれます。
2. 新規ホルモン薬(アビラテロン、エンザルタミドなど)
従来のADTに抵抗性を示す「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)」に対しては、新規ホルモン剤が使用されます。アビラテロンは副腎でもアンドロゲン合成を抑制するため、副腎転移に対して特に有効とされます。
3. 化学療法(ドセタキセル・カバジタキセル)
内分泌療法抵抗性を示す場合や、急速な病勢進行が見られる場合には、化学療法が適応されます。ドセタキセルは標準治療であり、カバジタキセルは2次治療以降に用いられます。
4. 放射線療法(定位放射線治療:SBRTなど)
副腎転移が限局している場合には、定位放射線療法(SBRT)によって局所制御を図ることもあります。骨転移などと同様に、疼痛緩和や腫瘍縮小目的で併用されます。
5. 外科的切除(アドレナレクトミー)
転移が副腎のみに限局している場合、ごく一部のケースでは外科的切除が検討されます。ただし、他の遠隔転移がないこと、全身状態が良好であることが前提となります。
新たな選択肢:光免疫療法との併用可能性
自由診療領域ではありますが、光免疫療法(Photoimmunotherapy, PIT)は局所病変に対して高い選択性と低侵襲性を持つ新規治療として注目されています。副腎などの深部臓器へのアプローチには課題がありますが、光感受性物質を腫瘍に集積させ、近赤外線を照射することでがん細胞を選択的に破壊することが可能です。
現在のところ、前立腺がんへの標準治療としては確立されていないものの、複数の転移病変に対する補助的治療法として研究が進んでいます。
まとめ|副腎転移への治療戦略
前立腺がんが副腎に転移した場合も、治療の選択肢は多岐にわたります。ホルモン療法を軸に、病状や全身状態に応じて化学療法や放射線、さらには外科的治療まで検討することができます。
重要なのは、一人ひとりの病状に合った治療戦略を専門医とともに検討することです。また、副腎機能の維持と生活の質(QOL)への配慮も不可欠です。
新しい治療法である光免疫療法も、今後の臨床応用が期待されています。治療に迷った際には、セカンドオピニオンや専門施設での相談も選択肢の一つとして検討してみてください。

【当該記事監修者】癌統括医師 小林賢次
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