ステージ4肺がんにおける肝転移の重要性
肝転移について
肺がんが進行しステージ4と診断される場合、遠隔臓器への転移が確認されます。肝臓はその中でも高頻度で転移が見られる臓器の一つであり、非小細胞肺がん(NSCLC)・小細胞肺がん(SCLC)を問わず注意が必要です。
肝転移のある肺がん患者は、転移がない場合に比べて生存期間が短くなる傾向があり、治療戦略の見直しが求められます。
なぜ肝転移が起こるのか
肝臓は血流が豊富で、門脈・肝動脈を介して腫瘍細胞が集積しやすいため、肺がん細胞が血流を通じて到達・定着しやすい環境といえます。
また、免疫的にもがん細胞が逃れやすい「免疫寛容環境」とされることから、転移の温床になりやすいとされています。
肝転移による症状と診断
自覚症状とQOLへの影響
肝転移は初期には無症状であることも多く、定期的な画像検査で偶発的に発見されることがあります。
進行すると以下のような症状が現れる場合があります。
- 右上腹部の鈍痛や圧迫感
- 黄疸(胆管圧迫による)
- 全身倦怠感・食欲低下
- 悪液質による体重減少
これらは患者のQOL(生活の質)を著しく低下させるため、早期発見と早期対応が重要となります。
診断方法
肝転移の診断には以下の検査が用いられます:
- 造影CT・MRI:肝臓の腫瘤性病変の検出に有用
- PET-CT:がん細胞の代謝活性を反映し、全身転移の評価も可能
- 血液検査:肝機能や腫瘍マーカー(CEA、CYFRAなど)の確認
- 生検:確定診断が必要な場合に実施
治療の基本方針と標準治療
化学療法による全身治療
肝転移を伴う肺がんでは、局所治療ではなく全身治療が主体となります。
化学療法は非小細胞肺がんではプラチナ製剤を中心とした併用療法、小細胞肺がんではカルボプラチン+エトポシドなどが用いられます。
分子標的薬による治療
EGFR、ALK、ROS1などのドライバー変異が確認されている場合は、それぞれに対応した分子標的薬の投与が行われます。
これらの薬剤は肝転移病変に対しても高い奏効率を示すことがあり、奏効すれば長期コントロールも可能です。
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)
PD-L1陽性例では、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)などのICIが第一選択として使用されます。
肝転移がある場合でも、一部の患者には免疫療法が有効であることが示されていますが、効果には個人差が大きく、事前のバイオマーカー検査が重要です。
緩和ケアと生活の質の維持
肝転移による苦痛症状の緩和
進行により痛みや食欲不振、黄疸が強くなる場合は、緩和ケアの早期導入が推奨されます。
疼痛に対してはオピオイド、黄疸に対しては胆道ステントの挿入などを検討します。
多職種連携による支援
がん性疲労や精神的な不安に対しては、看護師・栄養士・心理士・薬剤師などとの連携が不可欠です。
外来通院が困難になった場合には、訪問看護や在宅緩和ケアの検討も進められます。
光免疫療法という新たな選択肢
光免疫療法とは
光免疫療法(PIT)は、がん細胞に結合した光感受性薬剤を近赤外線で照射し、細胞破壊と免疫刺激を同時に誘導する新技術です。
現在は頭頸部がんに保険適用されていますが、当院では自由診療にて肺がんへの応用も行っています。
肝転移への可能性
光免疫療法は肝転移に対しても、腫瘍の縮小効果に加えて、全身免疫の活性化を通じて転移巣の制御が期待される治療です。
CTガイド下での照射、または血管内照射との併用により、局所と全身の両面からアプローチ可能です。
まとめと今後の展望
ステージ4肺がんにおける肝転移は、予後に大きな影響を与える病態ですが、分子標的薬や免疫療法などの進展により、長期生存も視野に入る時代となっています。
さらに、光免疫療法のような新しい治療法が加わることで、標準治療との組み合わせによる新たな可能性が広がっています。
当院では、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療方針を多職種でサポートし、QOLと延命の両立を目指した最適な治療をご提案しています。

【当該記事監修者】癌統括医師 小林賢次
がん治療をお考えの患者様やご家族、知人の方々へ癌に関する情報を掲載しております。
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